自費出版は「あくまで趣味のもの」だと思っている人は多いでしょう。自費出版された書籍は、家族や知人などの限られた人の目にしか触れないと誤解していませんか?
しかし、実は、自費出版の本がベストセラーになった例も少なくないのです。
たとえば、国語の教科書にも掲載され、ノーベル賞の候補にもなった『細雪』もたった200冊の自費出版がはじまりだったのです。自費出版が商業出版へのチケットになった例も多くあります。今回は、自費出版がはじまりだった有名作品について確認していきましょう。
目次
- 1 自費出版から有名作品になった6作品を紹介
- 1.1 谷崎潤一郎『細雪』・・・たった200冊の自費出版からスタートし、ノーベル賞候補にまで上り詰めた作品
- 1.2 宮尾登美子『櫂』・・・自費出版からスタートし、くすぶっていた作者の道を切り開いた作品
- 1.3 山田悠介『リアル鬼ごっこ』・・・作者のデビュー作にして、若者から絶大な支持を集めた作品
- 1.4 Jamais Jamais『B型自分の説明書』・・・自費出版からスタートし、占い本として異例のベストセラーを達成
- 1.5 Yoshi『Deep Love』・・・自費出版からスタートし、10代の少女に多大なる影響を与えた作品
- 1.6 島田洋七『佐賀のがばいばあちゃん』・・・自費出版からはじめて、自伝としては異例の大ヒットを記録した作品
- 2 まとめ:自費出版からベストセラーになるのも夢ではない
自費出版から有名作品になった6作品を紹介
自費出版から有名作品になったものは少なくありません。この記事では、その中から厳選し、6作品を紹介します。
谷崎潤一郎『細雪』・・・たった200冊の自費出版からスタートし、ノーベル賞候補にまで上り詰めた作品
ノーベル文学賞の候補にもなった名作『細雪』ですが、実はこの作品も昭和19年に自費出版されたのがはじまりです。『細雪』は、戦争の足音が迫る1936年から1941年までの大阪が舞台。船場で暮らす裕福な四姉妹の物語です。
『細雪』は最初、中央公論という雑誌で連載されていたのですが、谷崎潤一郎が『細雪』を書いていた当時、日本は戦争の真っただ中にありました。「欲しがりません。勝つまでは」といったスローガンを掲げられていた当時、裕福な姉妹たちの優雅な日常を描く『細雪』は、「内容が戦時にそぐわない」と警察からの干渉を受け、連載禁止に追いやられてしまいます。
しかし、掲載禁止になったものの谷崎はその後も『細雪』を書き続け、昭和19年に限定200部で自費出版したのです。たった200部ながら、多くの人に回し読みをされ、評判を集めました。
そして、戦後、言論弾圧がなくなったことをきっかけに、商業出版されました。商業出版されるや大ベストセラーとなり、毎日出版文化賞、毎日芸術賞、朝日文化賞などの名だたる賞を総なめにし、1958年には、『細雪』がノーベル賞の候補にもなったのです。
宮尾登美子『櫂』・・・自費出版からスタートし、くすぶっていた作者の道を切り開いた作品
今でこそ、女流作家として有名な宮尾登美子ですが、実は作家としてくすぶっていた時代がありました。宮尾登美子は、23歳ごろから小説を書きはじめ35歳の時に『連』で婦人公論女流新人賞を受賞し、『一絃の琴』で直木賞を受賞するなどして華々しく文壇にデビューしました。
しかしながら、デビューしたのちは、ヒット作を生み出すことができず、せっかく書いた作品を出版社から突っ返されることも少なくありませんでした。デビュー後、10年間は全く売れない時代が続きました。
そんな中、1972年46歳のときに初版500部の自費出版で、『櫂』を出版しました。『櫂』は、繊細な女性の心の機微を描いた作品で、出版されるや多くの女性からの共感を集め、大ヒット。『櫂』のヒットのあとは、多くの出版社から「本を出しませんか?」と声がかかるようになり、「舐めたらあかんぜよ」の名セリフで有名な『鬼龍院花子の生涯』をはじめ多くの作品を出版しました。
山田悠介『リアル鬼ごっこ』・・・作者のデビュー作にして、若者から絶大な支持を集めた作品
今ではホラー小説家として人気の山田悠介のはじまりは実は自費出版でした。
絶対君主制となった未来の日本で、ゲーム好きである国王が、同じ姓を持つ人間がこの国に多く存在することに怒りを覚え、”佐藤姓”を抹殺するために佐藤姓の者に理不尽な殺し合いのゲームをさせるという話です。
自費出版されるや理不尽なゲームの内容や独特の文体が、多くの若者の心をつかみ、累計発行部数200万部を超えた超人気作となりました。その後、映画化や漫画化もされ、そちらも大ヒットしました。
Jamais Jamais『B型自分の説明書』・・・自費出版からスタートし、占い本として異例のベストセラーを達成
2008年ごろに、血液型ごとの性格を説明した本が流行したことを覚えている人は多いのではないでしょうか? 真っ黒な表紙に『B型自分の説明書』と白抜きの文字で書かれた本書は、「あたっている!」「自分への理解が深まった!」「話のネタができた」と評判になり、占い本としては異例の、シリーズ累計540万部のこの超ヒット作となりました。
この本ももともとは、2006年ごろに著者のJamais Jamais氏が、自費出版会社に原稿を持ち込んだのがはじまりです。
現在では、この本が流行しすぎてブラハラという言葉が誕生するほどに、血液型占いは社会に浸透しました。
Yoshi『Deep Love』・・・自費出版からスタートし、10代の少女に多大なる影響を与えた作品
『Deep Love』は、空虚さを心に抱える高校生の少女が、売春・レイプ・妊娠・薬物・不治の病という悲惨な出来事を乗り越えた末に、真実の愛を知る話です。
最初、作者の個人サイトに掲載されていたのですが、女子高生を中心に口コミで話題になり、2000年に書籍版を自費出版するや、10万部のベストセラーとなりました。そして、2002年にはスターツ出版から商業出版物されて、最終的にはシリーズ累計売り上げが270万部をこえる大ヒットを記録しました。
『Deep Love』は、10代の少女から「リアルな女子高生の姿を描いている」と評価されて共感をされる一方、文芸評論家からは「内容がない」作品として、批判もされました。
しかし、当時の10代の少女に多大な影響を与え、その後、『Deep Love』の影響を受けた小説作品も多く出版されました。出版から20年近く経つ今でも、多くの人に世代を超えて、愛読されています。
島田洋七『佐賀のがばいばあちゃん』・・・自費出版からはじめて、自伝としては異例の大ヒットを記録した作品
漫才師として人気の島田洋七が、佐賀で過ごした少年時代の祖母との思い出を書いた自伝です。ビートたけしが、洋七の祖母の逸話を耳にし、自伝を書くことを強く勧めたことをきっかけに、1987年に3,000部限定で自費出版されました。
超のつく貧乏な家庭でありながら、奇想天外なアイデアによって楽しく日々を過ごす洋七と祖母のあたたかな生活や周囲の優しい人々の姿が多くの人の心を打ち、たちまち大評判となります。
その後、2004年に徳間書店で再出版され、一気に話題となり、売り上げ冊数は、自伝としては異例の総計400万部を超えました。
まとめ:自費出版からベストセラーになるのも夢ではない
以上、自費出版からスタートし、大ベストセラーとなった作品をご紹介してきました。内容が奇抜であったり、他業界で評価されていたりすれば、自費出版作品であっても多くの人に読まれることはできるのです。
もちろん、自費出版さえすれば、必ず上手くいくわけではありません。多くの在庫を抱えることにもなるかもしれません。しかし、暗い想像ばかりをして、後ろ向きにならず、一歩を踏み出してみても良いかもしれませんよ。
また、同人誌の作り方など基本の情報はこちらの記事でご覧いただけます。
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